日本の伝統的幽霊には足がない。その理由は諸説あり、最初にそのように描いたのは円山応挙という江戸時代の画家だとされているそうだ(ググった)が、これも俗説であるらしく、結局のところ誰がどんな理由で幽霊から足を奪ってしまったのかはっきりしていない。それに近頃の(?)フィクションに登場する幽霊には足がちゃんとある。日本の幽霊は大抵女性であるため、白くて細くてすね毛とかきちんと処理されていて生きている女性より麗しく妖艶な足である。いや、実にけしからん、嘆かわしい。

 日本は規律と伝統を重んじる国ではなかったか。新人の霊は特に服装等にも気をつけていないと痛い目をみる。成長はしないので死に装束は大きめを買う必要はない。ジャストサイズをパリっと着こなし、天冠(頭の三角の布、名前ググった)にバッジとか付けてデコったりしてはいけない。両手を胸の前でブランとさせて、足には霊力を集中させてしっかり隠す。出来ない奴は足だけ先に成仏させられる。あいさつはハキハキと「うらめしや」それが規律ある幽霊の姿である。命日の翌日からだらしなく着崩して足とか見せたり「うらめしゃーっす」とかナメたあいさつをしているようでは墓地裏に呼び出されて先輩幽霊に〆られること請け合いだ。

 字数稼ぎでどうでもいいことを書いたが、足が要らない合理的な理由を考えれば典型的幽霊像を復活させることが出来るのではないかと思う。自分は霊感が弱いため実際の霊を見たことはないが、フィクションに登場する幽霊たちは足の有無に関わらず同じ特徴を持っている。彼らには肉体=実体がない。故に霊は人や物に直接は触れることができず、壁や天井もすり抜けてしまうといった設定が多いわけだが、ここで一つ疑問が生じる。

 足をもつ幽霊たちは何故か律儀に地面に立ち、歩いている。幽霊に限らず実体を持たない設定の人物達(例えば映像だけのバーチャルな存在であるとか)も何故か前後左右の障害物を素通りする割に下方向に対しては何のこだわりか、地に足をつける(浮遊するタイプもいるので全てではないが)。当然ながら床や地面も実存する物体であり、壁と同じ障害物である。実体のない者たちはおそらく重力や摩擦力の影響をうけないため「地面を歩いているように見せる」ことすら難しいはずである。それはもうパントマイムの域だ。思うにフィクション作家たちは作中でそのような実体の無い存在を扱う際、下方向に対する意識が薄い。あるいは、辻褄合わせが面倒なため、あえて考えないようにしている。足元がお留守ですよ、ということだ。

 顕著な例を一つ。『ゼーガペイン』というアニメ作品をご存知だろうか。ロボアニメの苦手な自分が唯一全話視聴した名作SFである。ネタバレになるが(大したネタバレではない、物語序盤で明かされる)登場人物達は皆肉体的には既に死んでいて、幻体(幽霊みたいなもの)としてロボットを操り、敵と戦うという設定だ。何話だったか忘れてしまったが、まだ自分が幻体であることに気がついていない主人公がロッカーを開けようとするも、手が貫通してしまい驚く、というシーンがある。ところが、そのほんの数秒前に彼は瓦礫につまずいたりしている。というかそれ以前に建物の床を平然と歩いている。放送当時から首を傾げたほどの明らかな脚本の穴である(歩くのはともかく、つまずくのはさすがにマズいと思わなかったのか)

 それほど「実体がない」という設定において「地に足をつけて歩かせる」ことは厄介な問題なのだ。「自分がすでに死んでいてそのことに気がついていない」という物語はよくあるが、その場合は特にこの問題に目をつむらざるを得ない。自分が地面を普通に歩けないことに気がつくと「自分の実体が失われている」という結論にすぐさま辿り着いてしまう。しかし「幽霊だけど物には触れられる」という設定にすると、例えば「誰かに触れようとして素通りしてしまう」といったこれまたよくあるシーンは描けなくなる。『シックス・センス』のブルース・ウィルスがふわふわ浮かんでたりしたらオチもクソもない。台無しである。さて、

 

 

   おわかりいただけただろうか

 

 

 そう、幽霊に足はいらないのである。こんなものがあるからいらぬ矛盾点が表出してしまう。だったらなくしてしまおう。足だけ成仏させよう。室町時代だか江戸時代だかの絵かきはそう考えた。円山応挙もそう考えた。海外のボンクラ作家どもはこの問題から目を逸らし逃げ出したが日本の幽霊は違う。矛盾と戦い知恵を絞って病的で艶めかしい足を捨てたのだ。歩いたり這ったりテレビから出てきたりしている場合ではない。以上。

 

 

 

 

 くだらない文章に付きあわせたお詫びに、つべで見つけた心和む動画をどうぞ(元ネタ知ってるとより可愛く見えるはずです)

 


義足のMoses - YouTube

 

 

 本当は最近読んだSF小説の書評を書こうとしてたんだけど、内容が難しくて全然「評せて」いなかったので出直します。代わりにこんなしょうもない雑文書いてる暇があったら早く定職を見つけて「地に足の着いた」生活を送りたいもんです。

                              (よし、オチた)